7月18日放送『プレバト!!』俳句の詳しい解説です。
前編はこちら👇
テーマは「夏の満員電車」です。
テレビで発表された順にいきます。
山田邦子 「メイク落ち 極暑の車窓 あんた誰?」 3位
”頑張ってる女性の朝の様子。メイクが汗でぐしゃぐしゃになって満員電車で押されながらパッと隙間からガラスに映った顔を見て誰?と思っている”時の気持ち。
季語【極暑】[夏]
夏井先生「これは、俳句というよりはネタに落ちてしまったと、そういうタイプの物ですね。”あんた誰?”というここがネタとして俳句を突き落としてしまう、諸悪の根源はこれなんです。これさえ諦めていただいたら再生可能なシロモノではあるわけです。」
山田邦子さん「惜しい~」
夏井先生「いやそんな惜しくもない。(きっぱり)で、メイクからいくんじゃなくてここでしょうね、映像を持たない季語、”極暑”からいってみましょう。ちょっとずつ映像を作っていくと。「極暑なる」とやったらこれで5音ができますね。「極暑なる車窓メイクの落ちし」わたくしとかいて吾、『極暑なる車窓 メイクの落ちし吾』ここまでやったら、当然あっという間に才能ナシからは脱出できるんです。とにかくもうネタはやめて俳句してください」
意味もわかるしおもしろんですけどね😅やはりどうしてもネタっぽい。芸人さんはネタっぽくなること多いですね。夏井先生にすごい怒られますけど💧
続いては、満員電車に乗ったことがないので、オフの日に7時から乗ってみたというKEIKOさん。
ME:I・KEIKO 「飛んできた 謎の水滴 梅雨であれ」 4位
”初めて1時間乗ってみたら謎の水が飛んできて汗かな?と思って…”という句。
季語【梅雨】[夏]
会場からひ~って声が聞こえてきましたね😅
夏井先生「これは、兼題写真を見ていない人には全く意味が分からない、謎しかないというタイプの句なんですが、隣の人の傘から水滴が飛んできたみたいなそんな話なのかなとでも、それだったとしたら謎ではないですよね。だからご本人が一番かっこいいぞと思って作った謎っていう言葉が一番罪深いのかもしれないなと。そんな風に思いますね。まずこれ、”飛んできた”ということ言ってる場合じゃないし、あなたの好きな”謎”もいらないです。これぐらい削らないと、満員電車って言葉が入らないでしょ。で、ここもうとにかく満員電車って書くしかないという現状ですからね。で、こっからですよ。季重なりにはなりますけども何かよく本人もわかってないわけですから汗も書いちゃった方がいいですね。『満員電車 水滴は汗か梅雨か』もともとの発想が非常につまらないので直したところでつまらないです」
厳しいですね~💦芸人でもない、若い女の子に容赦ないの見るとひぇって思ってしまいますが😅エピソードが弱く、技術もないとやっぱり怒られちゃいますね💧
では次は2位。
紅しょうが・稲田 「止まらない 揺れる想いと 脇汗が」 2位
”好きな人と電車で帰ってる時、近い距離でなかなか電車がつかない中で脇汗を大量にかいた”という句。
季語【汗】[夏]
夏井先生「上五中七でなんか乙女チックにいくのかなと思ったら脇汗ってところで落差をつける?落とす?もう俳句作ろうとしてるんだけど、結果論、落ちに近いところに着地していると。そういうところがやっぱり詩の質としては食い足りなさすぎるというのはあると思いますね。じゃあここからですけど、もう毎回私ね、こういうタイプの直すのホーント…うんざり(ニッコリ)。これ外したくないんでしょ?(”想い”の部分)乙女としてはね。だとしたら、脇汗の方からいって少しこの思いに文字を寄り添わせてあげるっていう、それぐらいならできそうな気は致します。脇汗がたくさんわーっといきなり出てくると、滂沱って言葉知ってますか?…あ、もういいです、はい。こんな字書いて汗がばーっといきなり出るね、「脇汗の滂沱」いっぱい出ました、そして、「想いは」かな、こっからです。揺れるも使いたかったら『脇汗の滂沱 想いは 揺れている』ぐらいでもいいかもしれないですね。”止まらない”は全くいりませんよ。でそうしたら乙女チックなところに着地するので、この脇汗が嫌な感じにならないというか、汗臭さが少し柔らかくなるでしょ。こうやると乙女の句、恋の句にはなっていくわけですね。」
滂沱:汗や水が激しく流れ落ちるさま
稲田さんが2位でこんなに怒られるんやって言ってましたけどほんとに😆
芸人の方だとどうしてもネタっぽくなってしまうんですよね。
でも、この修正した句だと満員電車だってわからないかも…想いが揺れてるって三角関係かなんかで脇汗かいてるのかな?とか思っちゃう😅
Hey!Say!JUMP・藪 「幼子を 守る隙間に 青田風」 5位
”電車で通学中の小さい子供をつぶさないように大人が隙間を空けてあげる。その隙間にクーラーの風が吹く。青々とした風と若い子供をかけた”という句。
季語【青田風】[夏]:青々とした稲を波打たせる風
梅沢さんに季語をちゃんと勉強しなさいと怒られていました😅
夏井先生「んー、これはね写真を見てない人にはホントにわからない。ほんとにほんとにわからないですね。で、途中まではわかるんですよ。幼子を守ってるんですよね、幼子を守る隙間を作っている大人がいるというところまではちゃんと伝わるんですよ。ここまで伝わってるのに最後青田風が来ると、もう全くわからない世界に私たち読み手は放り込まれるんです。青田風というのは空間が必要なんですよね。それなのに、わざわざ隙間に吹かせるという、ここもう無理がありすぎるんですよ。でもうひとつは子供たちの成長を青田風で象徴したかった、比喩したかった。季語を比喩に使うと季語としての鮮度ががく然と落ちると。これもひとつ覚えておいてください。これは諦めてください。そして電車の中なんですよね。ですからこれもね、満員って書けよって話ですよね。満員の冷房の風ですね。そしたらここで冷房車ってどういう場所なのかって書いてあげるしかもうわからないです。で、”幼”いらないですね。「子を守る隙間に満員の冷房車」ってやってもいいんだけど、子を守る隙間っていうのもすごく説明的なんですよね。もう隙間もあきらめた方がいいです。”子”だけかな!さっきあなたが子供がつぶれそうになるからっておっしゃったじゃないですか。そこをありありと書いた方がいいかもしれませんよ。『子が潰れそう 満員の冷房車』ひとまずあなたが言いたいこと何とか伝わるようにはなりますよ」
浜ちゃん「伝わるだけです」
季語を比喩に使うって最初から凝り過ぎましたね~。しかし、季語の威力ってすごいですね。使い方を間違えると大変なことに💧
今回、怒られる人が多かったですが、他の人だとうれしいみたいで、ワイプに映った梅沢さんがにっこにこでした😅
最後は1位の金子恵美さん。
金子恵美 「ラッシュ降り 消残る皺や 麻スーツ」 1位
”夏なので、皺ひとつない薄手の麻のスーツで電車に乗ったが、満員電車でもみくちゃにされてホームで確認したら皺が残ってしまった”という句。
季語【麻】[夏]
夏井先生「ラッシュに巻き込まれたその経験をそのまんまお書きになっていると。その経験を文字にして下さると共感という評価が生まれてくるわけですよね。ラッシュでした、降りました、そして残っている皺を「や」で詠嘆をして、何の皺かっていうのを最後にタネ明かしをすると。こういう構造を狙ってきたわけですね。中七の消え残るってやったら字余りになってしまうので、消残るっていう古語になるんですけれども、古語を探してこられたんですね。それ見つけた時、やった!って思ったんですね。やったと思ったお気持ちまで全部こっちに伝わる。で、こっから後の、特待生を目指すっていう風な話をさせていただいていいでしょうか。特待生を目指すとしたら、これ現代の非常にリアルな光景を書いているんだけれども消残るという古語だけが少しなじんでないような、そういう印象をもつ人も絶対何割かはいらっしゃると思いますね。そういう時に特待生ならどうするか、スーツのピンとした所からいくといいと思います。「麻スーツ」字余りになるけど「に」という助詞がこの場合必要になります。ピッタリ5音にしたかったら”麻服”という季語もあります。「麻服に」と、こっからですね、”降り”と言わなくても「ラッシュの皺」ってやればラッシュによってついた皺ってわかるでしょ。「麻服にラッシュの皺の」こっからです。”消”なくても残りけりってやったら、終わったことがちゃんとわかる『麻服に ラッシュの皺の 残りけり』こうやったらもうね特待生クラスと、そういうことになるんですよ。」
ん?”消残る”が古語で現代の俳句に合ってないなら”残りけり”も合ってないんじゃ…?”けり”は俳句に良く使われるからいいとか?💧
他の方と違ってラッシュを降りた所からの句がいいですね。乗ってる時の句を詠みがちですもんね。
次は的場浩司さんの句です。
的場浩司 「電車降り 夜空に息を 吐く溽暑」
”学校からの帰り満員電車に乗ってやっと駅に着いてドアが開いて降りたらじめっとした空気に包まれて思わず夜空を見て溜息をついた”という句。
季語【溽暑】[夏]:梅雨の終わり頃の蒸し暑さ
昇格試験ポイント:「降り」「吐く」2つの動詞を使った是非
特待生4級 1ランク昇格→ 特待生3級
先生からの一言「得意な方向性が見えてきましたね」
夏井先生「もう成功する時はね、自分の体験をきっちりと言葉にした時は成功するんです。常にあなたは体験を大事にした方がいいと思いますよ。これはどこにも満員電車って書いてないんですけれども、電車を降りて思わずふーっと吐くと、ああこれ中ぎゅうぎゅう詰めだったんじゃないかなってことを読んだ人に想像させる力があると。これが俳句のメカニズムというやつですね。このまんまで直さなくてもいいんですが、ものすごくあなた熱心だから1個だけ可能性として語りますけれども、この溽暑の息をもうちょっと生臭いものにすることだってできるんです。どういうことかっていうと、この夜空ってあるじゃないですか。空が出てくると空間が広くなるでしょ。そうすると自分の息の生臭さっていうのがちょっと薄まるんですよね。だからもっと生臭くしたければ空を消して展開するとあなたのはーっていうのがもうちょっと強くなるかもしれません。電車降りました、そして、”空”を抜かして”夜へ”こっからです。”溽暑の息を吐く”と『電車降り 夜へ溽暑の息を吐く』こういう風にすると溽暑の息が生臭くなって夜へ向かって吐かれるでしょ。こういうことをあなたが体の中に蓄積していくと、おっちゃんに追いつける日は絶対来ます!」
夏井先生、的場さんにすごい期待してますね~。息が生臭いってなんか…肉食獣?ってなっちゃう🤣
溽暑ってものすごい湿気がありそうな言葉ですよね。この句って言っちゃなんですけど、エピソードとしてはなんてことない場面ですよね。”蒸し暑い夜に満員電車を降りてうんざりしてため息ついた”句ですよね。それでも映像化できているから評価が高いんでしょうね。
さて、最後は特別永世名人、梅沢さんの俳句の解説です。
梅沢富美男 「帰省子の デッキに立ったまま 眠る」
”新幹線が満員のとき乗客がデッキに立っている。見たら若い人がかばんの横に立って寝ている”という句。
季語【帰省子】[夏]:夏休みに故郷に帰る人
先生からの一言「なんでそんなことがわかるの?」
夏井先生「発想そのものはとても良いですよね。立ったまま寝ている青年でしょうね。実家に帰るのかな?っていう風に思いながら自分は指定席に帰っていくみたいな、そういう状況も見えますよね。発想そのものはすごくいいんですよ。小さな疑問があるんです。これ、たまたま出会った、たまたま見た光景ですよね。で、帰省だってはっきり言えるのかどうかってところがちょっとだけ気になるんです。俳句ってそんな微妙な所も書き分けることができるんですよ。特別永世名人ともなればできるんですね。パッと見てああ帰省する子に違いないなってそういうニュアンスでしょ?おっちゃん。」
梅沢さん「そうですよ!」
夏井先生「うん、そのニュアンスも俳句って表現できるんです。行きずりの子を見ました。「帰省子か」あれは帰省子であろうか?「デッキに立ったまま眠るは」、”は”を1つ入れる。でここ、音数調整したかったら「デッキに立ちし」とこれ許容されるので、『帰省子か デッキに立ちしまま眠るは』この音数も詰めたかったら、眠るを解消したかったら『帰省子か デッキに立ちしまま 寝るは』っていう風にすることもできるよね。おっちゃんが特別永世名人じゃなければ私も、よかったね~上手にできたねって言いますよ」
浜ちゃん「あー、そらそうです!」
夏井先生「でもあなた、色んな事ができるということでそこに座ってるんでしょ?そしたら色んな事やってほしいの。色んな事やって見せてやって下さい」
梅沢さん「74になって怒られたの初めてだわ!!」
またシュレッダーでした…。やはり、特別永世名人ともなると厳しくなりますね~。全員のお手本にならないといけないわけですね。句集も出してるから中途半端なものを合格にするわけにもいかないし…。次こそは、期待してます!(ちょっとかわいそうなんで)
次回は7月25日です。
夏井先生の「いちばんやさしい俳句日めくり日めくりカレンダー」
どんな所にも俳句のタネは潜んでいます。
日替わりのお題とその日にぴったりの季語で、一日一句!